抵当権は、宅建試験の権利関係分野で頻出のテーマです。抵当権とは、債権者が債務者の特定の不動産等に設定する担保物権のことを指します。債務者が債務を履行しない場合、債権者はその不動産を競売にかけて優先的に弁済を受けることができます。
抵当権の最大の特徴は、債務者が目的物の占有を継続できる点にあります。これにより、債務者は抵当権が設定された不動産を使用・収益しながら、債務の返済に充てることができるのです。
抵当権の効力は、単に抵当権が設定された不動産本体だけでなく、その付加一体物や従物にも及びます。例えば、建物に抵当権が設定された場合、後から取り付けられたエアコンや照明器具なども抵当権の効力範囲に含まれることがあります。
また、抵当権の効力は果実にも及びますが、これには条件があります。民法371条によれば、抵当権の効力が果実に及ぶのは、債務者が債務不履行に陥った後に限られます。つまり、債務不履行前の果実(例えば賃料収入)には抵当権の効力は及びません。
令和5年【問 10】 債務者Aが所有する甲土地には、債権者Bが一番抵当権(債権額 1,000 万円)、 債権者Cが二番抵当権(債権額 1,200 万円)、債権者Dが三番抵当権(債権額 2,000 万円)を それぞれ有しているが、BがDの利益のため、Aの承諾を得て抵当権の順位を放棄した。甲土 地の競売に基づく売却代金が 2,400 万円であった場合、Bの受ける配当額として、民法の規定 によれば、正しいものはどれか。
1 0 円
2 200 万円
3 400 万円
4 800 万円
この問題の正解は3の400万円です。
以下に詳しい解説と間違えやすいポイントを説明します。
したがって、Bの受ける配当額は400万円となります。
間違えやすいポイント
単純な順位変更と考えてしまうと間違えてしまいます。
例えば、順位が
C 1位
D 2位
B 3位
だとしたら、順位順に債権が満額配当されます。
Cが1200万円(満額)
D 1200万円(債権は2000万だが、残りが1200万しかないので1200万)
B 0円(1位と2位で配当可能額が0円になってしまうため)
しかし、BがDに順位を譲ったからといって、単純にBが3番目になるわけではありません。
順位放棄の場合は、こうなります。
C 1位
D 2位
B 2位
「順位放棄」という言葉から直感的にイメージできる順位と、実態がズレている気がしますね。だから間違いやすいのかも。
この場合、DとBの債権の額の大きさで按分計算が必要になります。
順位放棄と順位譲渡の混同
順位譲渡の場合は、譲渡を受けた者が先に弁済を受けますが、順位放棄の場合は抵当権最下位との按分計算になります。
ここ、ややこしいですね。順位譲渡と順位放棄は違うんですね。
ちなみに、「順位譲渡」も言葉から受けるイメージと実態がズレている気がします。
按分計算の見落とし
順位放棄後の配当計算では、放棄した者と放棄を受けた者の債権額の割合に応じて按分することを忘れがちです。
抵当権には順位があり、これは抵当権の設定順に決まります。先に設定された抵当権が優先的に弁済を受けることができます。しかし、この順位は固定されたものではありません。
抵当権者間の合意があれば、抵当権の順位を変更することが可能です。これを「順位の変更」と呼びます。順位の変更には登記が必要で、この登記をすることで第三者に対抗できるようになります。
抵当権が設定された不動産が第三者に譲渡された場合、その第三者を「第三取得者」と呼びます。第三取得者は、抵当権が実行されるリスクを負うことになりますが、同時に一定の保護も受けます。
例えば、第三取得者には「抵当権消滅請求権」が認められています。これは、抵当権者に対して、抵当権の目的となっている不動産の価額に相当する金銭を提供して、抵当権を消滅させることを請求できる権利です。
抵当権ぶんのお金を払うから、抵当権を消してくれ、という権利ですね。
通常の抵当権以外にも、宅建試験では特殊な形態の抵当権が出題されることがあります。その代表例が「根抵当権」です。
根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を担保するために設定される抵当権です。例えば、継続的な取引関係にある当事者間で、将来発生する可能性のある債権を包括的に担保する場合などに利用されます。
根抵当権の特徴は、被担保債権の範囲が流動的であることです。債権額の増減に応じて担保の範囲も変動しますが、あらかじめ定められた極度額を超えることはありません。
以上が宅建試験における抵当権の主要なポイントです。抵当権は複雑な概念を含むため、具体的な事例を交えながら理解を深めていくことが重要です。試験では、これらの基本概念を応用した問題が出題されることが多いので、しっかりと押さえておきましょう。