宅建業法34条の媒介契約書面は、不動産取引における重要な書類の一つです。この書面は、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)と依頼者との間で締結される媒介契約の内容を明確にするために作成されます。
媒介契約書面は、宅建業法第34条の2に基づいて作成されるため、「34条書面」とも呼ばれています。この書面の主な目的は、取引の透明性を確保し、依頼者と宅建業者の間で生じる可能性のあるトラブルを未然に防ぐことです。
媒介契約書面の作成義務は宅建業者にあります。宅建業者は、媒介契約を締結した後、遅滞なくこの書面を作成し、記名押印した上で依頼者に交付しなければなりません。
ここで注意すべき点は、宅建士(宅地建物取引士)の関与は必要ないということです。媒介契約書面の作成は宅建業者の責任で行われ、宅建士の記名押印は求められていません。
媒介契約書面が必要となるのは、宅地や建物の売買または交換の媒介契約を締結する場合です。賃貸の媒介契約については、この書面の作成・交付義務はありません。
これは、売買や交換が賃貸に比べて取引金額が大きく、契約内容がより複雑になる傾向があるためです。そのため、法律で特別に保護する必要があると考えられています。
媒介契約書面を作成する際、多くの場合は国土交通大臣が定めた標準媒介契約約款を使用します。この約款は、公平で適切な契約内容を確保するためのガイドラインとなっています。
標準媒介契約約款の使用は義務ではありませんが、国土交通省のガイドラインでは使用を推奨しています。特殊なケースを除き、ほとんどの取引でこの約款に基づいた書面が作成されます。
標準媒介契約約款の詳細については、以下の国土交通省のウェブサイトで確認できます。
国土交通省:宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款
近年のデジタル化の流れを受けて、媒介契約書面についてもペーパーレス化の動きがあります。2022年5月に施行された改正宅建業法では、依頼者の承諾を得た場合、媒介契約書面を電磁的方法(電子メールなど)で交付することが可能になりました。
これにより、取引の迅速化や保管の効率化が期待されています。ただし、電子交付の場合でも、内容や交付のタイミングなど、従来の紙の書面と同様の規制が適用されます。
媒介契約書面には、法律で定められた特定の事項を記載する必要があります。これらの記載事項は、取引の透明性を確保し、依頼者の利益を保護するために重要です。
以下、主な記載事項について詳しく見ていきましょう。
媒介契約書面には、対象となる不動産を特定するための情報を記載しなければなりません。具体的には以下のような項目が含まれます:
これらの情報は、取引の対象を明確にし、誤解や混乱を防ぐために重要です。
媒介契約書面には、対象不動産の売買すべき価額またはその評価額を記載する必要があります。この価格情報は、取引の基準となる重要な要素です。
宅建業者が評価額について意見を述べる場合は、その根拠も明らかにしなければなりません。これは、恣意的な価格設定を防ぎ、公正な取引を促進するためです。
媒介契約には、一般媒介、専任媒介、専属専任媒介の3種類があります。媒介契約書面には、どの種類の契約を締結したかを明記する必要があります。
各契約の特徴は以下の通りです:
契約の種類によって宅建業者の義務や依頼者の権利が異なるため、正確な記載が求められます。
媒介契約書面には、宅建業者への報酬に関する事項を記載しなければなりません。具体的には、報酬の額や計算方法、支払時期などが含まれます。
報酬に関する記載は、依頼者にとって重要な情報であり、後のトラブル防止にもつながります。なお、報酬額については、国土交通省令で定められた上限額を超えてはいけません。
2018年4月の宅建業法改正により、既存建物の取引において、建物状況調査(インスペクション)に関する事項を媒介契約書面に記載することが義務付けられました。
具体的には、依頼者に対する建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載します。これは、既存住宅の取引における買主の利益保護を目的としています。
建物状況調査に関する詳細な情報は、以下の国土交通省のウェブサイトで確認できます。
媒介契約書面は、単なる法的義務を果たすためだけのものではありません。この書面は、取引の安全性を高め、依頼者と宅建業者の双方を保護する重要な役割を果たしています。
媒介契約書面の作成と交付により、取引の条件や内容が明確になります。これにより、依頼者は自身の権利や義務を正確に理解でき、不測のトラブルを防ぐことができます。
また、宅建業者にとっても、業務の範囲や責任が明確になるため、スムーズな取引進行につながります。
媒介契約書面の作成や交付を怠ったり、記載内容に不備があったりすると、宅建業者は行政処分を受ける可能性があります。具体的には、業務停止や免許取消などの厳しい処分が科される場合があります。
さらに、書面の不備によりトラブルが発生した場合、宅建業者が損害賠償責任を負う可能性もあります。そのため、正確かつ適切な書面作成が求められます。
媒介契約書面は、不動産取引における3大書面の一つとされています。他の2つは、重要事項説明書(35条書面)と売買契約書(37条書面)です。
これらの書面は、それぞれ異なる役割を持っていますが、相互に関連しています。例えば、媒介契約書面に記載された価格は、重要事項説明書や売買契約書の内容にも影響を与えます。
媒介契約書面には、依頼者の個人情報が含まれます。そのため、宅建業者は個人情報保護法に基づき、適切に情報を管理する必要があります。
特に、書面の保管や廃棄の際には十分な注意が必要です。また、電子化された書面の場合は、セキュリティ対策も重要になります。
個人情報の取り扱いについては、以下の個人情報保護委員会のガイドラインを参考にしてください。
以上、宅建業法34条の媒介契約書面について詳しく解説しました。この書面は、不動産取引の基礎となる重要な文書です。宅建業者はもちろん、不動産取引に関わる全ての人々が、その内容と重要性を十分に理解しておくことが大切です。