宅建業法における媒介契約書は、不動産取引の安全性と透明性を確保するための重要な書面です。宅地建物取引業法(以下、宅建業法)第34条の2に基づき、宅建業者は媒介契約を締結した際に、遅滞なく媒介契約書を作成し、依頼者に交付する義務があります。
この媒介契約書は、依頼者と宅建業者の間の権利義務関係を明確にし、後々のトラブルを防ぐ役割を果たします。また、媒介契約の内容や条件を書面化することで、双方の認識の齟齬を防ぎ、スムーズな取引の進行を支援します。
媒介契約書は、民法上の準委任契約としての性質を持ちます。これは、法律行為以外の事務を委託する契約であり、宅建業者は善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います。
宅建業法では、媒介契約書の作成・交付を義務付けることで、不動産取引の適正化と消費者保護を図っています。特に、売買や交換の媒介契約においては、書面の交付が必須となっています。
媒介契約書の作成は宅建業者の責任で行われます。宅地建物取引士の関与は必須ではありませんが、多くの場合、その専門知識を活かして作成に携わります。
交付方法については、従来は書面での交付のみが認められていましたが、2022年5月の宅建業法改正により、依頼者の承諾を得た場合には電磁的方法(電子メールなど)での交付も可能となりました。
不動産取引のデジタル化に関する詳細な情報は以下のリンクを参照してください。
国土交通省:不動産取引のデジタル化に係る検討会
国土交通省は、媒介契約書の標準的な形式として「標準媒介契約約款」を定めています。この約款は、消費者保護の観点から必要な事項を網羅しており、多くの宅建業者がこれに基づいて媒介契約書を作成しています。
標準約款を使用しない場合、宅建業者はその旨を明記する必要があります。これは、依頼者に対して契約内容の特殊性を認識させるためです。
媒介契約書と重要事項説明書は、しばしば混同されますが、その目的と内容は異なります。媒介契約書が宅建業者と依頼者の間の契約内容を定めるのに対し、重要事項説明書は売買契約の締結前に、買主に対して物件の重要な情報を説明するためのものです。
両書面とも宅建業法で定められた重要な書類ですが、その作成時期や対象者、記載内容が異なることを理解しておく必要があります。
不動産取引のデジタル化が進む中、媒介契約書のオンライン化も進展しています。電子署名法の整備により、電子的に締結された媒介契約も法的効力を持つようになりました。
今後は、ブロックチェーン技術を活用した改ざん防止や、AI技術による契約書の自動生成など、さらなる技術革新が期待されています。これにより、取引の効率化とセキュリティの向上が図られると考えられます。
宅建業法では、媒介契約を3つの種類に分類しています。それぞれの特徴を理解することは、宅建業者にとっても依頼者にとっても重要です。
一般媒介契約は、最も制約の少ない媒介契約形態です。依頼者は複数の宅建業者に同時に媒介を依頼することができます。
特徴:
一般媒介契約には、他の宅建業者への依頼を明示する「明示型」と明示しない「非明示型」があります。
専任媒介契約は、一社の宅建業者にのみ媒介を依頼する契約形態です。
特徴:
専任媒介契約では、宅建業者の責任が重くなる分、より積極的な販売活動が期待できます。
専属専任媒介契約は、最も拘束力の強い媒介契約形態です。
特徴:
専属専任媒介契約では、宅建業者が最も優先的に取り組むため、迅速な売却が期待できます。
媒介契約の種類選択は、物件の特性や売却の緊急性、依頼者の希望などを考慮して決定します。
選択のポイント:
例えば、早期売却を希望する場合は専属専任媒介契約が適しているかもしれません。一方、じっくり買主を探したい場合は一般媒介契約が適しているでしょう。
媒介契約と代理契約は、しばしば混同されますが、法的な位置づけが異なります。媒介契約が売主と買主の間に立って取引を仲介するのに対し、代理契約は宅建業者が依頼者の代理人として行動します。
代理契約の場合、宅建業者は依頼者の名義で契約を締結する権限を持ちます。このため、代理契約を結ぶ際は、より慎重な判断が必要となります。
媒介契約と代理契約の違いについて、より詳しい情報は以下のリンクを参照してください。
公益財団法人不動産流通推進センター:媒介と代理の違い
宅建業法第34条の2に基づき、媒介契約書には以下の事項を記載する必要があります。これらの記載事項を正確に理解し、適切に記入することが宅建業者には求められます。
媒介の対象となる物件を特定するための情報を記載します。
記載すべき項目:
これらの情報は、登記簿謄本や固定資産税評価証明書などの公的書類に基づいて正確に記載する必要があります。
媒介契約書には、売買すべき価額またはその評価額を記載します。
記載のポイント:
価格設定は、依頼者と宅建業者が十分に協議して決定します。市場動向や類似物件の取引事例なども考慮に入れる必要があります。
媒介契約書には、宅建業者への報酬に関する事項を明記します。
記載すべき内容:
報酬額は、国土交通省が定める報酬告示に基づいて設定されます。ただし、告示の範囲内であれば、依頼者との合意により柔軟に設定することも可能です。
媒介契約の有効期間を明記します。特に専任媒介契約と専属専任媒介契約の場合、有効期間は3ヶ月以内と法律で定められています。
記載のポイント:
有効期間が経過しても売却できなかった場合の対応(価格変更、契約形態の変更など)についても、あらかじめ協議しておくと良いでしょう。
標準的な契約内容以外に、依頼者と宅建業者の間で特別に取り決めた事項があれば、特約として記載します。
特約の例:
特約事項を設ける場合は、法令に違反しないよう注意が必要です。また、依頼者に不利益となる特約は避けるべきです。
媒介契約書の記載事項に関する詳細なガイドラインは、以下のリンクを参照してください。
国土交通省:宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方
以上、宅建業法における媒介契約書の基本的な内容について解説しました。媒介契約書は不動産取引の基礎となる重要な書類です。宅建業者はその重要性を十分に理解し、適切に作成・交付することが求められます。また、依頼者も自身の権利と義務を理解するために、媒介契約書の内容をしっかりと確認することが大切です。