令和5年【問 3】
Aを注文者、Bを請負人として、A所有の建物に対して独立性を有さずその構成部分となる増築部分の工事請負契約を締結し、Bは3か月間で増築工事を終了させた。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、この問において「契約不適合」とは品質に関して契約の内容に適合しないことをいい、当該請負契約には契約不適合責任に関する特約は定められていなかったものとする。
1 AがBに請負代金を支払っていなくても、Aは増築部分の所有権を取得する。
2 Bが材料を提供して増築した部分に契約不適合がある場合、Aは工事が終了した日から1年以内にその旨をBに通知しなければ、契約不適合を理由とした修補をBに対して請求することはできない。
3 Bが材料を提供して増築した部分に契約不適合があり、Bは不適合があることを知りながらそのことをAに告げずに工事を終了し、Aが工事終了日から3年後に契約不適合を知った場合、AはBに対して、消滅時効が完成するまでは契約不適合を理由とした修補を請求することができる。
4 増築した部分にAが提供した材料の性質によって契約不適合が生じ、Bが材料が不適当であることを知らずに工事を終了した場合、AはBに対して、Aが提供した材料によって生じた契約不適合を理由とした修補を請求することはできない。
2番の記述が誤りです。民法の規定によれば、契約不適合を理由とした修補請求の期間制限は、買主が不適合を知った時から1年以内に通知することが必要とされています。問題文では「工事が終了した日から1年以内」となっており、これが誤りです。
間違いやすいポイント
契約不適合責任とは、売買契約において引き渡された目的物の種類、品質、数量が契約内容に適合していない場合に売主が負う責任を指します。宅建業法では、この責任に関する特約に制限を設けています。
具体的には、売主が宅建業者で買主が一般消費者である場合、民法の規定よりも買主に不利な特約を設けることを禁止しています。これは、不動産取引における消費者保護を目的としたものです。
契約不適合責任の範囲は広く、建物の構造上の問題から設備の不具合、さらには土地の地盤の状態まで含まれる可能性があります。宅建業者は、これらの点について十分な説明と情報提供を行う必要があります。
宅建業法では、契約不適合責任の通知期間について特別な規定を設けています。民法では、買主が不適合を知った時から1年以内に通知することが求められていますが、宅建業法ではこの期間を「引渡しの日から2年以上」とする特約のみを有効としています。
つまり、「引渡しから1年以内」といった買主に不利な特約は無効となり、民法の規定が適用されることになります。この規定により、買主は比較的長期間にわたって契約不適合を主張する権利を保護されています。
ただし、この特約制限は新築住宅には適用されず、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)が優先されます。品確法では、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、引渡しから10年間の瑕疵担保責任を義務付けています。
宅建業者が売主となる取引では、契約不適合責任を完全に免除する特約や、責任の範囲を著しく制限する特約は無効となります。例えば、「一切の責任を負わない」「現状有姿での引渡し」といった文言を含む特約は、原則として効力を持ちません。
また、特定の部分や項目についてのみ責任を負うとする特約も、買主に不利な場合は無効となる可能性が高いです。ただし、中古物件の場合、経年劣化による不具合など、合理的な範囲内での免責特約は認められることがあります。
重要なのは、売主である宅建業者が契約不適合の存在を知りながら買主に告げずに契約を締結した場合、いかなる特約があっても免責されないという点です。これは、宅建業者の信義則上の義務として重要視されています。
契約不適合が発見された場合、買主には以下の権利が認められています:
宅建業法では、これらの権利行使を不当に制限する特約も無効となります。例えば、「追完請求のみ認める」「損害賠償額の上限を設ける」といった特約は、原則として効力を持ちません。
買主は、これらの権利を適切に行使するために、不適合を発見した場合は速やかに売主に通知することが重要です。また、権利行使の方法や期限についても、契約書や重要事項説明書で確認しておくことが望ましいでしょう。
宅建業法における契約不適合責任の特約制限は、新築住宅の場合、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)の規定と密接に関連しています。品確法は、新築住宅の購入者保護をより強化する目的で制定されました。
品確法では、新築住宅の売主に対して、引渡しから10年間の瑕疵担保責任(実質的には契約不適合責任)を義務付けています。この責任は、住宅の構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分に適用されます。
宅建業法と品確法の関係性において重要なポイントは以下の通りです:
これらの規定により、新築住宅の購入者は手厚い保護を受けることができます。一方で、宅建業者は品確法と宅建業法の両方を遵守する必要があり、より慎重な対応が求められます。
契約不適合責任に関する詳細な解説と最新の判例については、以下の国土交通省のウェブサイトが参考になります:
国土交通省:建設業法令遵守ガイドライン(改訂)
このサイトでは、契約不適合責任に関する法的解釈や実務上の留意点が詳しく説明されています。
宅建業法における契約不適合責任の特約制限は、不動産取引の公正性と買主保護を確保する上で重要な役割を果たしています。宅建業者は、これらの規定を十分に理解し、適切な契約内容と説明を心がける必要があります。
一方、買主も自身の権利を理解し、不適合を発見した際には適切に対応することが重要です。契約時には、特約の内容を慎重に確認し、不明点があれば宅建業者に質問することをお勧めします。
また、近年では建物検査(インスペクション)の重要性が高まっており、契約前に第三者機関による検査を受けることで、潜在的な不適合を事前に把握できる可能性があります。このような予防的措置も、トラブル回避の観点から有効といえるでしょう。
最後に、契約不適合責任に関する紛争を未然に防ぐためには、売主と買主の間で十分なコミュニケーションを取ることが不可欠です。宅建業者は、物件の状態や潜在的なリスクについて誠実に情報開示を行い、買主の理解を得ることが重要です。
このような取り組みを通じて、より透明性の高い不動産取引市場の実現につながることが期待されます。